青森県

薬師の湯(恐山温泉) ★4.0

酸性硫黄泉?

青森県むつ市田名部宇曽利山3-2
男女別内湯
0175-22-3826
入山料 : 500円

恐山と言えば、死者の霊を口寄せで呼び出す事で知られる、イタコで有名です。
高野山、比叡山と並ぶ、日本三大霊場にも数えられており、「場所は知らなくても名前だけは」という人も多いのではないでしょうか。
862年に慈覚大師 が開山して以来、死者の霊が集う場所として信仰を集めてきました。
寺院は湖畔の荒地に建設されている為、境内の至る所から火山ガスが噴出し、その様子は一種異様。まるで地獄を思わせる、荒涼とした風景が広がっています。
それに対し、寺院に面する宇曽利山湖は、透明度が高く、波も立たない静かで穏やかな湖です。
神々しい神秘さがあり、まるで極楽浄土を思わせるような光景です。
極楽と地獄。対極する二つのコントラストが、人々に畏敬の念を抱かせ、恐山信仰に繋がったのだと思います。

さて、そんな前置きはさておき、私がここに来た目的はただ一つ、勿論温泉です。
恐山の霊場と温泉。何の関わりも無いような気がしますが、霊場内には共同浴場があり、参拝客は無料で利用する事が出来ます。
入浴料ならぬ、入山料は、大人一人500円。霊場内見物のオマケつきという事を考えれば、かなり格安で利用出来る施設だと言えます。
折りしもGWで多くの観光客が訪れる中、ケロリン桶と手ぬぐいという、およそ霊場巡礼客とは似ても似つかぬ格好で、入山料を払って境内に入りました。

境内は、思いのほか広々としています。
信仰心が全く無い私ですが、お堂や巨大な塔婆に囲まれた参道を歩いていると、心が清められるような、戒められるような、普段あまり感じたことの無いような気分になってくるから不思議です。
参道の脇には排水溝があり、そこには白濁した温泉が流れていました。
黄色い湯花もビッシリついており、境内全体が硫化水素の匂いで満たされています。
参道を暫く歩くと、両側に湯小屋が見えてきます。
参道を挟んで左側にある二軒が、「古滝の湯」と「冷抜の湯」です。
この日がたまたまなのか、普段からそうなのかは知りませんが、両方とも女湯になっていました。

肝心の男湯ですが、参道を挟んで右側にあります。
「薬師の湯」という名前がついた湯小屋が一つ、何も無い所にポツンとあります。
どうやら男湯はこの一つだけ。

二つも湯小屋がある女湯を羨ましく思いつつも、とりあえず入ってみる事にしました。

薬師の湯は、とても鄙びた湯屋です。引き戸を開けて中に入ると、まずは脱衣所。脱衣所の先は浴室になっており、途中、遮るものは一切ありません。
青森特産の総ヒバ造りの湯屋で、適度に黒く古びた剥き出しの木目が、風情を一層良く醸し出しており、見ているだけでも嬉しくなります。
温泉好きでこの建物が嫌いという人は、恐らく少ないのではないでしょうか。
浴室内には、二つの湯船があり、脱衣所から入って手前が小さめ、奥が広めです。
湯口は二つの浴槽の間にあり、同じ量のお湯が掛け流されています。結果、当然の事ですが、小さめの湯船の方が熱め、大きめの湯船の方が温めになります。
イキナリ熱いお湯に入るのは体に毒という事で、まずは温めの大きめな湯船から入りました。

大きめの湯船は、お湯の温度が湯口付近は44度、一番離れた所でも43度。
温めとは言え、それでもソコソコ熱いです。
ほんのり白く濁った、青緑色のお湯が、湯船に並々と注がれています。
かなり強烈な硫黄臭がするお湯で、硫黄臭の他に、「苦い」臭いがします。
「え?苦いって、そりゃ、臭いじゃなくて、味覚の話でしょ?」と、思われるかも知れませんが、臭いからして苦いのです。こんな強烈な硫黄臭は、他では滅多にありません。
飲んでみた所、想像した通りの苦さで、口中が渋くなります。苦味の次に来るのは、歯が溶けて無くなってしまうのではないかと思うような酸味と、僅かな塩味。
強烈すぎて、飲めた物ではありません。
酸性値はかなり高いらしく、入ってすぐに手先がシワシワになりました。
一時間も入っていれば、恐山にそのまま永住出来るのでは無いかと思う程、強烈かつ気持ちが良いお湯でした。

次に、小さめの湯船に入りました。こちらは、46.5度の高温です。私が入ったのを見て、オジサンが挑戦してましたが、足先だけ入れて飛び上がってしまいました。
普通の人には、なかなか入れない温度だと思います。
こちらも大きめな湯船と同じ、酸性硫黄泉です。源泉からは50度近いお湯がドボドボ掛け流されており、お湯が常に動いているので、実際の温度より熱く感じ、あまりゆっくり入る事が出来ませんでした。
温泉の鮮度さだけで話をすれば、大小どちらの湯船でもほぼ同じですので、よほどの熱湯好きか、僅かな温度低下でもお湯の劣化を感知してしまう敏感な人以外、あまりオススメ出来そうにありません。
入った手前、すぐに出る事は出来なかったので、2分程度我慢しましたが、あっと言う間にユデダコになってしまいました。

お湯の新鮮さ、強烈さ、周辺の雰囲気、湯小屋の風情。どれをとっても、文句のつけようが無い程に素晴らしい所です。
彼女に聞いた所、女性用の二つの湯小屋には、それぞれ別源泉が引かれていたそうです。
冷抜の湯には、私が薬師の湯で入ったものと同じ、硫黄臭が強烈なお湯で、もう一つの古滝の湯には、硫黄臭が控えめで、酸性度が更に高くて入ってすぐにピリピリしてくる、とても強烈なお湯だったとの事です。
「二箇所も入れてウラヤマシイなー」と思いつつ、来年のGWも絶対来ようと固く決意し、後ろ髪引かれる思いで恐山を後にしました。

そうそう。一つ言い忘れ。
お風呂に入っていると、色んな人が、ひっきりなしに湯小屋の中の様子を覗っては、風呂に入らず立ち去っていきました。
最初、何なんだろうな~・・・ と、思っていたのですが、考えてみれば、恐山は風呂メインな所では無いので、興味本位で覗く人がいてもおかしくありません。
また、観光バスで来る団体客などで、まさか温泉に入れるとは思ってもいなく、入りたいけれどもタオルの用意が無いので・・・ という人も多そうです。
少し落ち着かないような気もしますが、お湯の気持ちよさに比べたら些細な事ですので、無視してゆっくり寛ぎましょう。

ついでに、この恐山では、宿坊に宿泊をする事も出来るそうです。
と、言うことは、勿論温泉も24時間入り放題!?
しかし、恐山はいわずと知れた、いつお化けが出るとも分からない不気味な所です。
夜中に温泉へ独りで行くには、かなりの勇気が必要になりそうです。
ここは矢張り、日帰りだけに留めておくのが、正しい利用方法と言えるかも知れません。

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